2012/11/15
豊年の春(完全版)
この音源も本邦初公開である。
第三回目の訪朝のことはいろんな事情があって私のブログにもUPしてない。
テレビに流れることもほとんどなかったのでほとんどの人が知らない訪朝ではあったが、
実はこのドキュメントは一番奥が深いものであった。
「お客さん」として行くのだから、彼女たちと私の間にはどうしても「壁」がある。
「ロックの先生」なのだからどうしても「序列」がある。
しかしこうしていちプレイヤーとして飛び込んで、
ひとつの空間に朝から晩まで1週間放り込まれたら大抵の壁はなくなってしまう。
音楽というのはどうしても演奏者の気持ちが出てしまうので、
このテのアンサンブルを作り上げようとすると
「気持ちをひとつにする」
ということが不可欠になってくる。
そのために私たちは毎日毎日いろんなことを話し合っては練習する。
レコーディングは「一発録り」なので、
誰かがミスったら最初からまたやり直さねばならない。
録音したテイクを一緒に聞いては、
「この部分でこんなことを考えてたでしょ?」
とまた話し合う。
ラマの問答と同じで、それはどんどん人間の奥に入ってゆくものとなるのだ。
こうしていくつか出来上がったOKテイクのうち、
最終的に私が選んだのはこのテイクだった。
その時の感情を思い起こしてみると、
きっともっとちゃんとまとまっているテイクはあったのだが、
何度やっても最終的にこのテイクになってしまったのだ。
今聞くとやっぱ「荒い」と感じる部分もあるが、
なんかそれが「スリリング」に聞こえて素敵なのだ。
リーダーとなるべく育てられたオデコと、
音楽的な才能に恵まれながらリーダーではないボンボンと、
そして彼女たちが聞いたこともないようなリズムを叩く外国人とが、
いろんなことを超越して気持ちをひとつにする。
別室でボンボンにこんなことを言ったこともある。
「役者の世界にはこんな言葉がある。
主役は誰にだって張れるが、
一流の脇役こそがその映画を素晴らしいものにしてるんだよ」
主役よりも先に譜面をもらって先に練習していたボンボンは、
当然ながら主役よりも「上手い」演奏で「まとめ」に入ろうとしていた。
もともと腕はあるわけだからいつまでたってもそつなくまとめている。
オデコはオデコでリーダーのプライドとしてボンボンには負けられない。
先に走っているボンボンを追い抜こうとしゃかりきになる。
「序列」が何よりも大切なこの国ではそれは「命懸け」の戦いであったのだろう。
そんな時に人は「神」を見たりする。
オデコがふっと身体が浮いたようになって、
それに戸惑いながらもエクスタシーを感じている瞬間を私は見逃さなかった。
「こんな感覚は初めてでした」
と彼女は言う。
それでもボンボンはずーっと「守り」に入っていた。
別室でボンボンとまたいろんなことを話す。
そんな中でのふとしたひと言、
「仲間の中では一歩上に行ってるのに仲間のために一歩降りなきゃならない苦悩ってあるよね」
みたいなことを言った時に彼女はきっぱりと私にこう言った。
「仲間の悪口は言いたくありません!!」
これが最初に会った時にあれだけオドオドしてた子と同一人物なのか・・・
その後に更に私にとって衝撃的な言葉が出て来るのだが、
その話は本の中のみにしておいてここでは書かないでおこう。
そして彼女のプレイはこの瞬間から変わった。
「そつなくまとめよう」というプレイから、
ぐいぐいと攻めてゆくプレイになった。
つまり「ロック」である。
5年経って改めてこのテイクを聞いてみると、
最後の方のサビの繰り返しの部分は、
完璧主義者のボンボンにしてはプレイが相当荒い。
オデコもそれにつられて何度も崩壊しそうになるが、
それを「根性」で持ち直している。
これも「ロック」である。
私は私で最後のセクションの時に、
他のテイクでは全て途中のセクションと同じくバスドラを踏んでいるのだが、
このセクションだけバスドラを踏んでいない。
いや、あまりの彼女たちの気迫に圧倒されて「踏めなかった」のである。
こんな時に無理してバスドラを入れようとすると足がもつれてミストーンが出たりする。
一発録りで差し替えが出来ない状況で、
ここで私が最後の最後にミスをしたらこのテイクは「水の泡」となってしまうのだ。
私は二人の気持ちを受け取って即座にバスドラを「切り捨てた」。
瞬時に判断して彼女たちの「気持ち」を「守った」のである。
それも私の「ロック」である。
そしてエンディングが終わってボンボンが思わず
「うまく弾けた」
とつぶやく声がこのテイクには入っている。
今聞けば人にお聞かせするにはかなり「荒い」テイクである。
でも私はこのテイクに私たちの1週間の全てが表れているようで、
やっぱり他のテイクを聞くことなくこのテイクを世に出そうと決めた。
完璧主義者のボンボンがどうしてこの荒いテイクで
「うまく弾けた」
とつい叫んでしまったのか・・・
卒業してもう私の手の届かないところに行ってしまった彼女と
またいつか会える日が来たとしたら、私は
このテイクを彼女たちと一緒に聞きながらまたいろんなことを話してみたい・・・