2018/04/03
布衣(BuYi)の内乱
もう10年以上北京での生活を共にする布衣(BuYi)の全中国ツアーに参加している。
知り合った頃は10人も客がいなかったバンドが、
今ではどの地方に行っても100人以上は動員するバンドとなったのは驚きである・・・
今回のツアーメンバーはドラムが私ファンキー末吉、
ベースがよーしーずこと渋谷有希子、
そしてギターは小畑秀光というラインナップで、
「寧夏のバンドだった布衣が今は日本のバンドじゃねぇか!!
いっそのこともうボーカルも日本人に変えちまえ!!(笑)」
と冗談を飛ばす・・・
実はこのメンバーは、私がプロデュースした新しいアルバムのレコーディングメンバーで、まだアルバムは発売前ではあるが、今回のツアーはその新しいアルバムの曲を中心に演奏されるツアーである。
・・・と、このように書くとバンドも順風満帆にと思われることだろうが、実は数ヶ月前にとても大きな事件が勃発していたのである・・・
事件の発端はある日のこと、
「エンジニアの方言(FangYan)がツアー先で酔っ払って足の骨を折ってねぇ・・・」
寧夏から車チャーターして北京の病院に運び込んだんだよ・・・と、共に暮らす北京の院子でLaoWuがそう言った。
「あいつも飲むと酒癖が悪いからなぁ・・・」
その時にはそれぐらいにしか思ってなかったのだが、それが後に大きな問題となって取りだたされるなるとはその頃には夢にも思っていない・・・
前回のツアーの最終地、内モンゴルの赤峰というところに呼ばれた。
その時のブログにも書かれているように、
もともと私は「大太鼓を叩く」ということで呼ばれている。
つまりは「いてもいなくてもライブは出来るのだが、よかったら来て大太鼓でも叩いてよ」という立場である。
ところがその日は結局ドラマーも来なかったので私がドラムを叩いた。
その時には「何か用事があって来れなくなったのね」ぐらいにしか思ってなかった。
何せこのバンドは昔から「メンバーが急に来れなくなったから」と言って代わりのメンバーとして私や他いろんなミュージシャンが駆り出されることはよくあったからである。
まあ当時は全くと言っていいほど金にならないバンドだったので、
何か金になるオイシイ仕事があったらそちらを優先することは「しゃーないなぁ・・・」という状況だったのだから仕方がない。
ところがここ数年は布衣の方が見入りがいいのか、当時は「Funkyが忙しくて来れないから」と言って駆り出されていた芳芳(FangFang)が正式メンバーとして居座って(笑)いるので全く呼ばれなくなったなぁ・・・と思っていたのだ。
その時に言われたメンバーチェンジの話も、今から思えば私にとってはちょっと引っ掛かる話だった・・・
何せこのLaoWuという男、自分から「バンドをやめてくれ」と言うことが出来ない男なのだ。
最初のドラマーをクビにする時にも一年言い出せずに待っていたと言うし、
ベースのLinNaが妊娠した時も「バンドは新しいベースを探す」とは言えずに「じゃあその間休んでいてくれ」ということにしていたことも私は知っている。
ある時、日本にLaoWuを呼んでどっかのバーで一緒に飲んでた時にこんなことを言ったことがあった。
「実はギターのZhangWeiがバンドをやめちゃうんだ」
LaoWuのとても悲しそうな表情が印象的だった・・・
私は逆にとても明るくこのように言い返した。
「そりゃよかったなぁ!!これでバンドはもうお前ひとりのもんだ!!
今までみたいにZhangWeiに譲歩しながらやってゆく必要はない。
もうこれからはお前の思うようにバンドをやっていけばいいんだよ。
おめでとう!!(笑)」
LaoWuはとてもびっくりしたような顔で私を見て、
そして何か吹っ切れたようにちょっと笑って私と乾杯した。
布衣というバンドは元々ZhangWeiのバンドで、
そこにLaoWuは後から加入して来た。
当時寧夏の田舎街でいち早くロックをやってたZhangWeiは、
当時LaoWuを含め、田舎の若者たちの憧れの存在だったのだ。
だからLaoWuはいつもこう言ってた。
「俺はバンドで歌わせてもらってるんだから・・・」
どこかで聞いたことがあると思ったら二井原が私にこう言ったことがある。
「俺はな、こんな素晴らしいミュージシャン達と一緒に音を出して、そこで歌わせてもらってることを本当に幸せに思うんだ」
歌手(Singer)とボーカリスト(Vocalist)の違いというブログでも書いたが、
私にとって本当に「こいつってバンドのボーカリストなんだな」と思うのは二井原とこのLaoWuだけである。
二井原がバンドのレコーディングリハの時に他の誰よりも早くスタジオに来て、
いそいそとマイクをセッティングしてリハを録音し、
それに自分のアイデアを家でダビングしていそいそとバンドみんなにメールしている姿と、
朝早くからZhangWeiの機材を積み込んで会場入りして、
ZhangWeiが来るまでにその機材をセッティングしてあげてるLaoWuの姿はいつもダブって見えてたのだ。
バンドのリハーサルでいつもLaoWuとZhangWeiが喧嘩してたのは見てたし、
そんなZhangWeiがバンドをやめるとなったらむしろホッとするんじゃないの?
それでもLaoWuは悲しいのか・・・いいヤツだな(笑)などとその時は思っていたのだ。
だからバンドのメンバーがまとめて3人も脱退するなんて私にはちょっと信じられない事実であったが、
「まあバンドには他の人が知らないいろんなことがあるからな」
とその時はそれぐらいに思っていた・・・
脱退した後に、実は私はギターのMiaoJiaとLaoWuとを同じイベントにブッキングしていた。
「もう一緒にステージには立てないから」
とLaoWuが言うので
「こいつみたいなヤツでもここまで人と揉めるんだなぁ」
とびっくりした。
布衣としてはギターに小畑秀光を呼ぶのでそれでよいが、
爽子のバックバンドとしてもMiaoJiaをブッキングしているので外すわけにはいかない。
まあ呼び出したんだから私としてはMiaoJiaと酒でも飲む。
「バンド脱退したんだってねぇ・・・」
そう聞く私に彼は
「いや〜ギャラが安くてやってらんね〜よ」
と笑いながらそう言った。
「子供も生まれて今俺は最低でも月に2万元の稼ぎが必要なんだ。
とてもじゃないけどやってらんね〜」
多い時にはバンドを9つ掛け持ちしていたこいつだが、
最近は布衣ひとつになったので生活してゆけなくなったのかな・・・
その時はそのぐらいに思っていた・・・
しばらくして、親しくしている業界人LaoLuanから電話が来てこんなことを言う・・・
「おい、知ってるか?LaoWuとFangYanのこと・・・
実はあれはツアー先で二人が酔っ払って喧嘩して、LaoWuがFangYanの足をへし折ったってよ・・・」
!(◎_◎;)
「このことはFangYanは何も言わないんだけど業界の噂でね」
と言い足してから電話は切られたが、私にはちょっと信じられないような話である。
10年以上一緒に暮らしていて、LaoWuは人と喧嘩をするようなそんな人間ではないのである・・・ましてや人の足を折るほどの暴力を振るうなんて・・・
私はすぐにLaoWuを呼び出して詰問した。
「お前と俺は家族だ。
最終的には人が何を言ったって、最終的には俺はお前の言うことを信じる。
俺にだけは本当のことを言え。それがどんな事実だったとしても俺は家族としてお前を守る」
LaoWuの反応は、私から突然そんなことを言われてびっくりしたのと共に、
今から思えば「状況はそこまで来たか・・・」という表情もあったようにも思える。
「そんなことはあり得ないよ!!その現場は寧夏の友達がみんな見てたし」
真っ正面から否定するLaoWuの表情にウソはないように思える。
いや、そもそもそんなウソをついたり出来るような男ではないのだ・・・
「じゃあ誰がそんな噂を流した?FangYanは自分からはそんなことは言ってないと言ってるぞ」
答えを聞くまでもない。
その場にいたのは当事者であるLaoWuとFangYanと寧夏の友人たち、
そして「バンドのメンバー」だけである・・・
「MiaoJiaか?」
私はとっさにギタリストの名前を口に出した。
他の二人のやめたメンバーは性格的に攻撃的な人間ではないので、
そんな悪意を持った中傷を流すならこいつかな、と私は思ったのだ。
「ちょっと彼と膝付き合わせて話に行くよ・・・」
とLaoWuが言ってそれでこの話は終わっていた・・・
しかしそれから後に、想像もしなかった大きな問題が起こるのであった。
今年に入って私は70本近くの日本ツアーを行っていた。
そのツアー先で、とある業界人がこんな文章が出回ってると送って来てくれた。
声明:布衣楽隊は正式にボーカルのLaoWuをクビにします!!
!(◎_◎;)
全くもって理解に苦しむ声明である・・・
私の見解では、布衣はZhangWeiが脱退した後にはもう「LaoWuのバンド」なのである。
誰がこんな声明出したの?・・・
この声明には、LaoWuがどれだけ酷い人間か、
マネージャーと結託してバンドの収入を独り占めしてるとか、
暴力的な人間でエンジニアのFangYanの足を叩き折ったとか、
まあ目を覆うようなことが書かれていて、
最後には脱退したメンバー3人の名前が連盟で書かれている・・・
私はツアー先からすぐにLaoWuに電話をした。
「何なの?これ・・・」
正直全く意味がわからなかったのだ。
こんなことして誰が得をすんの?・・・
私は真っ先にそれを思った。
何せ布衣の詞曲のほとんどを作っているのはLaoWuで、
その3人がLaoWuをクビにして布衣を名乗ったところで、
別のボーカルがそれらを歌って今よりも歓迎されるはずがない。
つまり今まで2万元も稼げなかったんだとしたら、
これを断行したところでもっと稼げるようになるわけがないのだ!!
明らかにこれは「嫌がらせ」・・・
誰も得をしないんだったら憎っくきLaoWuに損をさせる目的以外の何ものでもない。
布衣側としては正式に声明を出して、当然の如くこれを否定した。
その後、何事もなかったかのようにツアーが始まっている。
ツアー前の取材で
「今回のツアーは大幅にメンバーが変わってその影響などはありませんか?」
という質問に対してLaoWuはこう答えている。
「何言ってんですか、今回のドラムはアジアドラムキングのFunkyですよ。
布衣の1枚目のプロデューサーでもあります。
レベルが上がることはあっても下がることは決してない!!」
つまり「Funky」という名前を「品質保証」に使ったわけだ(笑)
よいよい、いくらでも使うがよい!!
私の仕事はその期待を裏切らないプレイをすることである。
ずーっとそれをやって来たから今がある・・・
やめた3人のメンバーにも言いたい。
お前たちが戦うのはそんなところではない、「音」で戦うべきなのである。
今回のツアーで
「やっぱ昔のメンバーの方がよかったよね」
と言わせられればお前らの勝ち、
「今回の布衣は前の布衣より数段よかったよね」
などと言われたとしたらお前らの惨敗である。
まあ悪いけど惨敗で終わるじゃろうな・・・(笑)
そんな人を陥れるような文章を考えるヒマがあったら、
どうして「他のプレイヤーには絶対に出来ない音」
(テクニック的にという意味だけでなく、独自のスタイル、サウンドという意味で)
ををもっと頑張って作り上げとかない!!
少なくとも日本人のギタリストにコピーされて「そっちの方がよかった」などと言われたとしたら、ボーカルをクビにする文章を送りつける前に、お前はバンドで何をやっていた?
悪いが私は今回のツアー終わって次に別のドラマーが代わって叩いたとしても
「やっぱFunkyさんの方が凄かったな」
と言われるようなプレイをしてる自身はあるぞ!!
まあ今から言ってももう遅いだろう。
お前も次の自分のバンドで頑張ってそれを成し遂げろ!!
何か助けが必要なら遠慮なく言え!!いつでも助けに行ってやるぞ、説教付きでな(笑)
今回の事件で私が真っ先に考えたのは、私がこの争いに「巻き込まれ」たりしないかということだったが、どうやらそれも杞憂に終わったようだ。
昔もっと大きな事件零点(LingDian)のボーカルとのメンバーとの訴訟劇があった時も、私は「中立」の立場を貫いた。
ボーカル小鸥(XiaoOu)のバックもやるし、零点のアレンジもやる!!
そもそもスタジオミュージシャンなんて究極にはゴルゴ13みたいなもんなんだから(笑)、請け負った仕事は思想、宗教などに関係なく完璧にミッションを遂行すればそれでよい。
この敵ばかりを作りたがる中国人社会の中で、
長年に渡って誰からも敵視されない希有な立場にいられるのもこのポリシーがあってのことである。
大事なのは仕事、音楽!!・・・そして「人間性」である・・・
LaoWuが酔っ払ってケンカしてFangYanの足を叩き折ったなんて誰がそんな話信用するだろう・・・
もし信用したとしたらそれはLaoWuの「日頃の行い」である。
かく言う私も日本でとある大きなプロジェクトのミーティングでこんなことを言われたことがある。
「問題なのはお前の性格だ!!お前はキレやすい!!」
私は悩んで色んな人に相談したが、みんな笑って取り合わない。
「末吉は仲間うちの中では相当温厚な方やと思うよ」と和佐田。
「もし末吉さんがキレたとしたら、それはその人はきっとよっぽど酷いことをしたんでしょうね」と沼澤。
だから人と争ったりしてはダメなのだ。
(JASRACとの戦いは別にして・・・(笑))
LaoWuにもこう言って説教をした。
「お前ももう昔みたいな無名のアンダーグラウンドミュージシャンじゃない。
人はな、有名人のいいところなんて見やしない。
悪いところを見つけてはそればっかり吹聴するんだよ。
だからもうお前も人と争うな」
これは自分にとっても大きな戒めとなる。
いい歳こいて人と争って人生何が楽しい?・・・
余談として、長年LaoWuやFangYanと暮らした院子が取り壊しのため出て行けと言われている。
LaoWuは今まで通りみんなで一緒に暮らそうと思っているようだが、
FangYanの方はもうLaoWuと一緒には暮らしたくないようだ。
きっとべろんべろんで何も覚えていない状態で、人から
「LaoWuがお前の足を叩き折ったんだよ」
などと言われて
「そうかも知れない」
などと思っているのかも知れない(笑)
まあ「人の感情」ばかりはいくら兄貴分の私としても立ち入ってコントロール出来たりするもんではない。
問題はどちらもが「Funkyは自分と一緒に住むだろう」と思っていることである。
私は迷わずFangYanを選んでLaoWuにそう通達した。
「お前の周りにはもう色んな人がいて、俺がいなくたって十分楽しく暮らしていけるだろ?
FangYanは俺がお前んとこ行ったとしたらきっと寂しく思うだろうからな」
ロックとは「強い」音楽である。
だからロックを志す者は常に弱い者の味方でなくてはならないと思っている。
足を折って数ヶ月働くことが出来なかった「家族」のひとりを、
今度は私が助けてやらなきゃなんないんじゃないかな・・・
性格的にはめんどくさいヤツなんやけどな・・・しゃーないなぁ・・・(笑)