2013/04/22
寧夏省銀川の不思議なライブハウス
バブル真っ只中の中国では、
とんでもない田舎町にお金持ちがいたりして、
それが世代的に若い頃にロックの洗礼を受けてたりして、
そんなこんなでアンダーグラウンドのロックバンド達はいろいろ恩恵を受けたりしている。
布衣(BuYi)で一度呼ばれた貴州省貴陽のバーもそうだった。
普段は歌謡ショーとかやってるバーで儲けて、
夏の気候が良い時期になると毎週週末に北京からロックバンドを呼ぶ。
もちろん旅費やホテル代にギャラまで出したら赤字である。
でも彼は儲けたお金の中から毎年必ずそれをやっている。
自分はロックに育ててもらったんだ、
だからロックに恩返しをするんだ・・・とばかり・・・
公安とイタチごっこしながら営業しているライブハウスもあったり、
日本資本で営業しているライブハウスもあったり、
でもこの銀川のライブハウスは一番不思議なライブハウスである。
何が不思議かと言って客層が不思議なのである。
初めてこのライブハウスで演奏したのは1年前、
Bs.納浩一、Org.大高清美、Vo.三科かをりというメンバーでここにやって来た。
こんな凄い人達が中国に来るんだからライブをブッキングしてよ、
と老呉(LaoWu)に頼んだらこの店を紹介してくれたというわけだ。
客が入らなかった困るのでアンダーグラウンドではあるが地元のロックスターである老呉(LaoWu)もゲストでブッキングしてある。
これがまた満員なんだな・・・(笑)
まあ満員なのはいい、特筆すべきはその客層である。
中国では田舎に行くほど客が大騒ぎをするが、
この店の客はとにかく度を超えた「酔いどれ」。
普通の店の倍ぐらいの値段のこの店の酒を浴びるほど飲む。
まあ飲むのだから泥酔してステージに上がり込んで来て
マイクを持ってわけのわからないことを叫んだりする客もいたりするのはご愛嬌だが、
だいたいそんな酔いどれ客など演奏なんて聞いてないのが常である。
特にJazzだの小難しいことをやってると大体は聞かずに仲間内で大声で盛り上がったりするものなのだが、
全中国のライブハウスの中でこの店の客だけは違うのだ。
その時も大高清美さんの変拍子の難曲とか、納浩一さんの超絶なベースソロとか、
ちゃんと騒がずに聞いて惜しみない拍手を与えている。
同じメンバーで北京でやった時には、
客層は明らかに「聞く耳がある」ミュージシャン達が多かったのでそりゃ聞いていたが、
ここの客層は決してそんな感じではない。
死ぬ気で飲みに来ている田舎のおっちゃんおばちゃん青年たちが、
純粋にこの難しい音楽をちゃんと「楽しんで」聞いているである。
今回もドラムソロを叩いてそれを感じた。
拍手が来る場所や盛り上がる場所がツボを得てるし、
ここの客は本当にこの音楽を「理解」している。
「理解」と言ってもしちめんどくさいものはわからないだろうが、
少なくとも「いいものはいい」という「感覚」を持っているように感じる。
「何つう音楽か知らんがホンマに感動した。楽しませてくれてありがとう」
という種類のものである。
まあステージを降りたら酔いどれの写真や握手や一気飲みの洗礼を受けることになるのだが(苦笑)・・・
彼らは本気で「飲みに」来ている。
そして「音楽」が美味しく酒を飲むためにどれだけ貢献しているかを知っている。
「音楽」こそは「最高のツマミ」なのだ。
私が最初に北京に来た頃、もう20年以上前になるが、
その時にも感じたことである。
RockだJazzだジャンルは関係ない。
「好听(HaoTing)」もしくは「不好听(BuHaoTing)」、
つまり「よい」か「悪い」かだけである。
(「好听(HaoTing)」を正確に訳せる日本語がないので思いっきり意訳)
当時ワシは「売れる音楽」だけを強要される世界に住んでたので、
まだジャンルが確立してないこの中国に大きな魅力を感じた。
売れる「下らない音楽」なんかやらなくていい。
売れない「素晴らしい音楽」をやっていればいいのだ。
なにせ当時この国では「革命の歌」以外は「売れない音楽」だったのだから・・・
その証拠に「精神汚染音楽」として政府から忌み嫌われていた「ロック」という音楽が、
共産党が推奨する「革命の歌」よりも売れる時代が来たではないか。
・・・とか言いながら、
今ではもう北京をはじめあらゆる大都市では音楽は細かくジャンル別けされ、
「聞く耳がある」リスナー達が自分の好きなジャンルだけを「頭」と「耳」で聞く時代になって来ている。
誰もこの銀川のライブハウスの客のように「心から」音楽を楽しんではいない。
もっと田舎に行ったら逆にまだまだ「音楽を楽しむ」までいってないのかも知れないが、
中国で2番目に小さなこの省の省都である銀川の、
たまたまこの店に集まる酔いどれ達がちょうど「そんな時代」なのではないか・・・
ひょっとしたらこの街もまたいつか「発展」して北京や他の大都市のようになるのかも知れない。
そしたらもっと田舎にまたこんなバーが現れるのかな・・・
願わくばここだけは変わらずこの「不思議な空間」を維持し続けて欲しいと思う。
ps.この店のオーナーは10月にまた新しい店を出すと言う。
「ファンキー、その時はまた来てくれよ。また最高のドラムを叩いてくれ」
そう言ってワシの肩を叩く。
「北京から有名歌手を呼んでくれないか」
などと言うような人間ではない。
そしてまた自腹でミュージシャン達にとびきりの羊肉をご馳走してくれるのだ・・・