もう20年近く前の話になるのではないか・・・この映画音楽!!
日本では全く知られていないが、中国ではその年のタイタニックの売り上げを超える大ヒットとなった映画音楽を実は私がやっていた・・・
これには色んな話があるのだが、実は友人の友人で寧浩(NingHao)という若い映画監督がいて、その友人から頼まれた・・・
「撮影で予算使い果たしちゃって、音楽を付ける予算があと4万元しか残ってなくて、誰もこんな安い値段じゃやってくれないって困ってるんです。末吉さんやってくれませんか?」
北京にスタジオを作ったばかりで、そこで録音すれば別に他所に出てゆく経費もないし、まあ若い才能を助けるのは「ライフワーク」だから喜んで引き受けた。
後で知ることになるのだが、4万元と言うと約60万円・・・当時は中国の映画バブルは始まっていて、映画音楽だとゼロがもうひとつは付くというのが相場だったので、いわゆる「タダ同然の仕事」である。
実はこの寧浩(NingHao)という監督が自分も昔バンドをやってたりして、音楽には非常に思い入れがある人間で、結局1ヶ月かかって作った音楽を全部作り直したりもした(涙)・・・
まあ誰もが「こんな低予算の映画なんか売れるわけはない」と思ってたわけで、私も
「彼の初監督作品を、思い残すことないように自分の出来ることは何でもやってあげよう」
と思ってたので、まあ非常に辛い制作活動ではあったが、彼のためにと頑張ってやってあげた・・・
ところが最後の最後で監督が数場面の音楽にどうしても納得しない(>_<)
もう私も数ヶ月こればっかりやってるので限界で、監督が
「じゃあ別の人間を立ててもいいか?」
と言うのでさすがに私もOKした。
その人間が原芸(YuanYi)という、当時は売れないバンドのキーボーティストであった。
「おお、お前か〜・・・じゃあよろしく頼むわ!!」
既に面識があったので話は早いと思ってたら、彼は数曲作った後に監督のあまりの神経質さに嫌気がさしたのが逃げ出しよった(怒)
監督が「じゃあこの場面についてミーティングしよう」と言うのに電話も出やがらない!(◎_◎;)
もうね、私なんかこれをずーっと数ヶ月やり続けているのに、たった数日で逃げ出すとは何事だ!!と私は怒りが収まらないが、音楽監督としてはちゃんと仕事は完結しなければならないので、煮湯を飲まされてるような気持ちで(飲んだことないから知らんが)最後まで仕事をやり遂げた・・・(涙)
そして誰も想像もしなかった事態となった・・・この映画が中国映画史上稀に見るほどの大ヒットとなったのだ!(◎_◎;)
ポスターにはでかでかと私の名前と彼の名前が書かれている・・・
それからである、彼の大進撃が始まったのは・・・
彼は「この映画の音楽は全部自分が作った」かのような触れ込みで映画音楽家として大成功し、若い音楽家を何人も雇って、自分の名前で仕事を取って来ては彼らにやらせて、まるで「音楽工場」のように仕事を量産して大金を稼いだ・・・
数年後彼と再会した。
誰かと飯を食ってる時に彼も呼ばれたんだったと記憶しているが、彼はブランド物の高そうな服に身を包み、見るからに高価な装飾品を身に纏っていた。
その身なりにカチンと来たが、彼はと言うと、やはり私に対して負い目があるのだろう、それはそれは平身低頭な態度で私に接する・・・
それがまた卑屈に感じてカチンと来るのだが、中国では人と喧嘩してはろくなことがないので煮湯を飲まされる思いで(飲んだことないから知らんけど)我慢した。
それから大音楽家になった彼の仕事も呼ばれてやったりするが、今だに彼の私に対する態度はそんな感じである・・・
そんなこんなで十数年、ここに来て「この映画のサウンドトラック盤を出さないか」という話が来た。
こんな大ヒットした映画のサントラが今まで出てなかったのには理由がある。
今でこそ中国の権利関係には日本なんかより厳しいが、昔は昔である。
香港の会社なのでそれでもちゃんとしようと思ったのか、「契約書にサインしてくれ」と言うが、あいにくその日は私は北京にいなかった。
会社は困って院子にいた嫁に「じゃあ貴女でいいからサインして下さい」ということで嫁がサインした!(◎_◎;)
というわけで私はどんな契約書だったのかも知らないというのが現実である(笑)。
こんなものが有効なのかどうかはわからないが、エンディングテーマを作って歌ったラッパーが「この曲を発売したいんだけどいいですか?」と連絡して来た。
「いいも悪いもお前が作ったんだから俺は別に意見はないけど、映画会社が権利を主張して訴訟になるかも知れないよ」
と警告はしておいたが、
「いいんです。訴訟になれば話題になってますますこの曲が売れますから」
と言うので「さすが中国(笑)」と感心した記憶がある。
そんなこんなで、この挿入歌を私がプロデュースしたデビューアルバムに入れようという布衣にも同じこと「もし訴訟になったら話題になってアルバムが売れるから入れちゃえ入れちゃえ(笑)」とこの曲のフルバージョンを作って入れて、今では彼らの一番のヒット曲になっている。
それによって私と作詞をしたボーカルのLaoWuは当時著作権がまだ確立してなかった中国では数十億円「儲け損ねた」ということになるのだが、まあそれも笑い話として笑い飛ばしている(笑)。
実は数年前から「サントラ出しませんか?」という声はあったのだが、そのマルチがもうどこにあるやらわからない(>_<)
権利関係もクリアではないのでぶち捨ててたのだが、ここに来てその音源が見つかった!(◎_◎;)
「布衣がこの歌を歌ってて誰も何も言って来ないんだから権利関係は大丈夫でしょう」
と布衣のマネージャー・・・
そもそもどんな契約書だったのかも見たことないのだから、私からは何も言えることはない。
発売元がその事情を知った上で発売したいんだったら「じゃあいいですよ」としか言いようがないので、その制作が始まった・・・
何故「制作」しなければならないかと言うと、実はこの映画音楽にはたくさんの中国民族楽器が使われている。
これは私から監督への助言で、
「重慶の土着のストーリーなんだから民族楽器を多用しよう!!その方が国際的に評価される映画になるから・・・中国人音楽家だと民族楽器に対して固定概念があるから逆に使いにくいけど、私は中国の民族楽器を一番理解している外国人音楽家。任せなさい!!誰にも出来ないような素晴らしい音楽をつけてあげるから」
ということで多用したわけだが、これがまんまと成功して、今だに
「あの映画の音楽は他とは全く違う」
と評価が高い・・・
ところが、効果音的に1秒だけ琵琶とか、そんなものがたくさん並べられてもサントラ盤にはならないので、そんな短い曲(?)は繋ぎ合わせて一曲にしてしまえ!!と思い立ったが最後・・・こうして今、自分で自分の首を絞めているというわけだ(笑)
まあ時間のある時にちまちまと作業して、琵琶は琵琶曲、ギターはギター曲ということで何とか「曲」にして納めた。
ところが発売元からこんなメッセージが来た・・・
「冒頭のピアノ曲は入ってないんですか?」
ピアノ曲は原芸(YuanYi)が作ったものなので私が勝手に使うわけにはいかない。
それに、個人的にはこれを聞いた途端に私は嫌な気分になるのだ(>_<)
そもそも私はキーボードを弾けないので、彼のように画面を見ながら「ちょちょいと」ピアノを弾いて「一瞬で完成」というわけにはいかない。
画面を見ながらテンポを打ち込んで、それに合わせてちまちまと音楽を打ち込み作業をしなければならないので彼の数倍時間がかかるのだ・・・
それを本当に「ちょちょい」と数時間だけやって、それでオイシイ所だけ全部持って行った彼が憎たらしい・・・
私はその後、この映画の大ヒットを受けて、私が受けた安い値段まで有名になってしまったので、同じような「タダ同然」の値段で何本か映画音楽を受けて、数ヶ月同じ格好で・・・と言うのも、日本から院子に遊びに来た友人が、朝私の仕事してる姿を見ながら街に出かけて、夜になって帰って来た時に「ファンキーさん、全く同じ格好でずーっと仕事してたんですか!(◎_◎;)」ということから「同じ格好」と言うのだが、それをひとつの作品で数ヶ月続けるわけだから、そのうち嫌になってもう映画音楽はやらなくなった・・・
そんな私に比べて、原芸(YuanYi)と来たら「上手いことやりやがって!!」・・・そう、私が彼に対する嫌悪感は、上手くやれなかった自分の「嫉妬心」なんだなと最近わかって来た。
今更ではあるが、エンディングクレジットの原芸(YuanYi)は、ポスターとは違って「音楽編集」になっている・・・
監督の私に対する「誠意」が今更ながら伝わって来た・・・(いや彼は一日で逃げたから編集もやってないが・・・笑)
もう60歳も過ぎて、今さら若い衆に嫉妬してどうする・・・
というわけで、映画に入っている全ての音楽を全部洗い出して表にする・・・
50数曲作った中で、彼が作ったのはほんの数曲・・・まあまた面白くない感情は湧き出て来るものの、映画を全部通して見ると、彼の数曲は「私には出来ない感性」が確かにある!!
例えば喧嘩をする場面、そこに私はロックなど暴力的な音楽を当てていたが、彼はそこに例えばピアノとバイオリンを使って(ホント簡単で腹が立つ笑)悲しい音楽を当てて来る・・・
確かに「喧嘩をしなければならない状況は悲しい」のである・・・
私は私でこだわりがあり、物語のキーとなる「宝石」が出て来る所には琵琶の音色、悪徳不動産屋はエレキギター、重慶の田舎泥棒にはバンドのサウンド、香港の泥棒には電子系と、コンセプトに基づいて音楽を当てているが、彼はピアノとバイオリンでそのコンセプトをぶち壊したことになる・・・
ところが効果は大きい・・・私はあまりにもそのコンセプトに縛られ過ぎて、もういくつかの場面にはそのコンセプトで音楽は当てられなくなってしまったのだ・・・
「Funky、映画音楽で一番何が大切か教えてやろう・・・それは"气氛(QiFen)"それが映画音楽の全てだよ!!」
監督が私にそう言った・・・結果原芸(YuanYi)が付けた音楽は「正しかった」というわけである・・・(>_<)
いや〜それにしてもこの映画音楽はよく出来ている・・・(感涙)
原芸(YuanYi)が付けた部分を除いて、知る人しか知ることが出来ないが(笑)、各楽器によって登場人物を表現しているコンセプトも素晴らしい!!
作品が売れるということはやはりそんなことなのだ・・・
人知れず「思い入れ」がその作品を上に押し上げている・・・
そんな感想を改めて感じた・・・
主役の郭涛(GuoTao)が私に言った。
「主役の私も音楽の貴方も何の賞も貰えなかったけど、貴方の音楽がなければこの映画は絶対に成功してなかった!!」
かく言う彼は、無名だった役者が中国では知らない人はいないほどの大俳優になった。
私だけが「上手くやれずに」今だにこんな感じである・・・
でもそれでいいのだと思う。
私はこの若き監督、寧浩(NingHao)のために数ヶ月の時間を費やして、自分の「思い入れ」をいっぱい詰め込んでこれらの音楽を作った。
それによって寧浩(NingHao)は有名監督になり、主役の郭涛(GuoTao)も大俳優になり、ちょちょいと数曲だけやって逃げた(笑)原芸(YuanYi)も大音楽家になった。
そしてみんなが私に感謝している・・・
私は「ドラマー」なのだ!!
コンテストに出ても賞など取ったことはないが、誰もが一目置く「優秀な」ドラマーである!!
いつも若い衆にこんなことを言っているではないか!!
「下手なドラマーは"ドラムが下手くそ"だと評価される。いいドラマーは"いいバンドだね"と評価される。ドラム人生とはそんなもんだよ・・・」
十数年ぶりにじっくりと全て見させて頂いたこの映画・・・本当に「いい映画」である!!
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